
現在のプロ野球は北は北海道、南は九州まで12球団が散在しており飛行機に新幹線を使って年がら年中移動の連続です。このサイトでは今年から野球雲マップという企画を立ち上げ、日本にある野球の痕跡をより実体的に楽しめるように(これは編集も野球ファンの方も含めて)、様々な土地の野球にまつわるエピソードを集めようとしています。
今回は野球界の昭和30年7月号から、阪急ブレーブス、西鉄ライオンズ、南海ホークス、中日ドラゴンズ、阪神タイガース、広島カープの6球団が使用していた東京の宿舎と、野球雲を発行している汀書房の本拠地東京都江戸川区に当時在住していた東京オリオンズの山内和弘が語る江戸川住宅事情を書いていきます。
各球団の合宿事情
まず、各球団の宿泊所は以下の通りです。
球団 | 旅館名 | 住所 |
阪急ブレーブス | 天竜旅館 | 文京区本郷弓町 |
西鉄ライオンズ (大洋ホエールズも使用) | 大国 | 文京区春日町 |
南海ホークス | 中野ホテル | 中野区中野駅前(中野区中野3丁目) |
中日ドラゴンズ | 本郷館 | 文京区本郷弓町 |
阪神タイガース | 清水旅館 | 文京区本郷弓町 |
広島カープ (近鉄パールス) | 朝陽館 | 文京区本郷弓町 |
ほとんどの球団が文京区本郷弓町、現在の文京区本郷一・二丁目の旧地名でお察しの方もいるかもしれませんが、後楽園スタジアムに徒歩で行けるほど近い所で宿をとっていました。西鉄ライオンズが宿泊していた【大国】もかなり近い所にありどの球団もアクセスの良さを考慮した選定となっていました。ここにあげられる旅館は球場までは歩いても7~8分ほどの距離で、体格の大きい男性を大人数宿泊させる収容力の高い立派な旅館、というよりは記事曰く「普通の旅館」であるからこそ選ばれたとされています。今の様にビジネスホテルやカプセルホテルが乱立しているわけではないので資金力のない球団でも宿泊所はそれ相応の場所を用意されていたのでしょう。
この中で異彩を放つのは一つ、中野という離れた立地にホテルを取っていた南海ホークスですが古くから南海の宿舎として利用されており、球場との行き来はバスを使用していたそう。ホテルと球団側の縁があったのか、はたまた球団のエピソード的に安上がりだったのかはわかりません。ただこの中野ホテルは南海ホークスが1959年に日本一に輝き、日本初のビールかけを行った際に使用されたホテルで昭和36年頃になくなるまでは使用されていたとされています。記事の記載の仕方からすると戦後間もない1リーグ時代には使われていたと思われるので、そこからの縁を考えると感慨深いものを感じてしまいますね。
山内一弘が語る江戸川事情

同記事内では「僕の日記」という題で山内和弘がチームの合宿所と当時住んでいた小岩について語っていました。1954年は山内がブレイクした年であり入団時から期待されていた才能が花開いた年でした。その年にこういったコーナーで文章を書いているということは期待の若手として球界からの注目度が増した時期だったと察することが出来ます。
今年こそ合宿に入ろうと思っていたら、またお流れになるらしい。シーズンが始まるとともに、野口(二郎)さん、荒川(昇治)さん、榎本君が、入ってしまったからだ。「お前は部屋を持っているんだから、我慢せい」と言われれば、住宅難の折から、いたし方がない。
それにしても、いま僕の住んでいる小岩(東京都江戸川区}というところは何と蚊の多い所だろう。五月下旬というのに蚊が出はじめた。
しかし、これからナイターなので、疲れて帰ってくれば、蚊どころでなく、一寸横になればグーグーだから、蚊も気にならない。それでも、今年は大事をとって、良い蚊帳を買って、ゆっくり寝る計画をたてた。睡眠こそ、明日の活動の基になるのだから。
山内はこの年の選手名鑑だと愛知県の出生地が住所になっているのですが、一軍に帯同し始めたこの頃には江戸川区小岩に住んでいたようです。この時は合宿所に済ませてもらえないことに愚痴をこぼしていましたが翌1955年の選手名鑑では合宿所が住所となっていたので頑張った御褒美として無事入所が出来たようで何よりです。
今の小岩と全く同じかと言われると謎ではありますが、この記事執筆当時の5月には蚊がうようよ飛び回っています。江戸川区が川に囲まれている所ではあるのでいくらでも湧いて出てくるだろうとなと想像こそつきますが、70年前のプロ野球選手も同じことに悩んでいるというのも面白い話です。合宿所に過ごせることになり蚊に悩まずに済んだと思いきや、1957年にはまた住所が小岩になっていますので、このあたりは時代が故の情報の不正確さになってしまうのでしょうが。
参考資料
野球界-昭和30年7月号-
本郷弓一町会 | 文京区
https://www.city.bunkyo.lg.jp/b011/p001311.html
ビジネスホテルについて | 教えてホテル
https://oshietehotel.jp/basic/about-business-hotel
鶴岡一人 著『南海ホークスとともに』,ベースボール・マガジン社,1962. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2496442 (参照 2025-05-25)
1959年日本で初めて「ビールかけ」が行われる|酒・飲料の歴史|キリン歴史ミュージアム
https://museum.kirinholdings.com/history/column/bd083_1959.html
コメント